無常ということ
敗戦の時
東京は 見渡すかぎり 焼け野原
上野駅には 敗残の民と悪臭が 満ちあふれ
マッカーサーを乗せた 高級車が
お堀端を 走っていた
すべるように 音もなく
今は高層ビルの林立
世界のブランド品や 香水が 街を かっぽする
五十年 百年の後
どんな姿に なるのだろう
その時 私は もういない
寂しいけれど
あたりまえ
学校に入る 時も
卒業する 時も
誕生や 死亡届の 時も
みな 同じ名前
朝 起きた時の 私と
仕事につく時の 私でさえ
もう 違っているのに
「小腸は 一ヶ月で 細胞が入れかわる
完全に
人間の細胞は 一年で 入れかわる
ほぼすべて」(養老孟司)
人は みな 行く雲
流れる川と 同じ
仮に 同じ一つの名前を 使っているだけ
「骨や 歯ですら
絶え間のない 分解と合成が
繰り返されている
体脂肪でさえも
ダイナミックな 流れの中
流れ自体が
生きている ということ
変化こそが
生命の真の姿」(福岡伸一)
いつでも どこにでも
無常の風が 吹いている
証を必要としない この世のすがた
その時どきの 変化のすがたに 執われて
嘆き悲しんだり 喜んだりしてしまう
我が子の誕生には こころ天にのぼり
やわ肌に 手をそえて 満ちたりる
恩愛の情は たちがたく
なきがらに 手をそえて 悲嘆に沈む
花は 美しく咲いても 自慢しない
いつまでも 咲いていたい と欲ばらない
気がつかぬほどに
あるいは 劇的に
無常の風が 吹いている
いつでも どこにでも
「ただ」それだけ
はかないとも 嬉しいとも
何も いわず
あるのは
変化そのもの でしかない
「こと・ものすべて無常なり と智慧もて見とおすときにこそ
実に 苦を 遠く離れたり」(法句経)