人は、生きて、老いて、死んでいく。ただそれだけの人生を、そのままでいいと、とらわれなく感謝してすべてをお任せすれば、人生はそれだけでは終わらない—
詩と対話で綴る仏教的生き方論『いまのあなたのままでいい』(石上智康・大平光代著)より、君津光明寺の石上智康住職による詩をご紹介いたします。

石上智康肖像

君津光明寺 石上智康住職

「いただいているこの命、気をつけて大切に生活し、自分の器量に応じたところで精いっぱいやれば、それでいいのだと思います。ジタバタしてもはじまらない。いや、ジタバタしている『そのままでいい』という覚りの真実に『お任せ』するしか、最後はありません」

人間

目は 口ほどに ものをいい
ときめいて
肌の ふれ合う

愛 それは いのちの発露
愛 それは 執われ
喜びと悲しみの はじまり

無心に笑み 慕い寄る
おさな子の
つぶらな瞳
抱きとれば 肌つたうぬくもり
ほお寄せて 至福のとき

肉親の かたき絆
思いやり 支えあい
いささかの甘え ゆるしあう
麗しく
しかし 限られしもの

背筋のばして 名利にはしり
はげみ つくろい 夢をおう

偽りの装いに 身をかざり
むさぼりと いかりと 愚痴と
喜怒哀楽の巷
日々 執われの
深き 闇をゆく

花には 人間のような 執われがない
咲く花も
散る花も
さまざまに 縁がかかわり
ただ咲いて ただ散ってゆく

「ただ」になれない 日々の暮らし

人の欲望と 知の営みは
豊かさと 破壊をもたらし
その奔流は やまず
一人ひとりの 責任

離陸して 空たかく
乱気流に まきこまれ
木の葉のように 飛行機はゆれて
ああ これまでの終章か
死ぬのが こわい
しがみついてる この私

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